ベニスの高潮 その2 | イタリアよもやま話

ベニスの高潮 その2

そんな「海襲警報」も鳴らない時がある。イタリアである。
そうなると出てみて初めて高潮に気がついて、仕方がないので引き返してゴム長靴を履き、ベニスの外に出かける際は履き替え用の普通の靴と、長靴も入るような袋を持って出直さなければならない。さすがにベニス以外の町で黒いゴム長靴で一日闊歩する勇気はないからだ。
高潮は、満月の出る頃の大潮の時期に、海側からの強い南風シロッコと雨天などといった条件が揃うと起こる現象である。毎月あるわけではない。秋と初春の時期に多い。
高潮の時に歩く際、気をつけなければならないことがある。水位が踝の高さ10センチ位のときはよいのだが、ふくらはぎ位の高さになると、水が濁っている為に運河の近くでは気をつけないと運河の深みにはまる危険性がある。この位の高さの高潮の時は、多くの運河沿いにある歩道が水に浸かり、一時的に「大運河」となってしまうので、普段からの道の幅を知っていないと危険だ。まぁ、そんなふうにして運河にはまったという話は今のところ聞いたことは無いが、実際に運河と一体になった場所を歩く際に不安感を抱くのは本当である。
もう一つ気をつけることは、歩き方である。一般的に高潮の水位は踝からふくらはぎ長靴があっても所詮は膝下までのものなのでちょっとでも波を立てると長靴の中に水が入ってくる。海水と言っても街の廃水とかと一緒になっているだけに「何が混ざっているかわからない汚水」だから、触れる事は避けたい。腹が立つのは、魚釣り用の腰までのゴム長を履いて、これ見よがしにバシャバシャと近くを通り過ぎる人だ。こういう人は雨の中歩道の通行人に水しぶきがかかるのも平気でとばすドライバーと同じ無作法者である。不慣れな外国人観光客で、素足のまま楽しげに汚水の中を散歩しているのを見ると、少しギョッとする。
またベニスの石畳は平坦ではないので、極端に高い水位の時で長靴の上端近いときなどは、一歩一歩が賭けである。3~4cmの凸凹も命取りになる。大袈裟なようだが経験に基づく話だから間違いない。
今までで一番高い水位の経験は2,3年前、大人の太もも近くまで上がってきて、普段は絶対に水に浸からない地域もどっぷりと浸かってしまった。普通の高潮は潮の引く時間には徐々に引いて2~3時間で元通りになるのだが、あの時は強い風が海側から吹きつづけ海水が数時間戻らなかった。高潮の訪れる時期(秋と初春)に道沿いに重ねて常設される「渡り板」とも呼べる板も、サイレンが鳴って市当局からの係員が並べに来るのだが、あの時は水位が高すぎて用をなさなかった。
とはいえこれほどの例は数十年に一回のことである。